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研究内容

【研究紹介】
当研究グループでは、電子機能材料の開発と、その機能発現機構の解明を目指す研究を行っています。

  • (1) 鉄系超伝導体の薄膜成長と接合作製
    2008年にLaFeAs(O,F)が26 Kで超伝導になることが、東工大の細野教授のグループから報告され、 これをきっかけに鉄を含む新たな超伝導体が次々に発見されました。 超伝導転移温度は現時点で56 Kに達しており、BCS理論の予想を上回る、第2の高温超伝導体群として注目されています。 当研究室では、2008年10月より、MBE法によりこれら鉄系超伝導体の良質な薄膜の成長と、それを用いた物性研究や、超伝導接合などの研究を行っています。 新しい高温超伝導体として注目されている鉄系超伝導体の良質な薄膜の成長と、それを用いた物性研究や、超伝導接合の作製などに取り組んでいます。 2008年10月にスタートしたJSTの戦略的創造研究推進事業「新規材料による高温超伝導基盤技術」 では、 生田教授を代表者として提案した研究課題「局所構造制御による鉄砒素超伝導薄膜の物性制御基盤技術の構築」が採用されました。 その結果、1111系と呼ばれる、鉄系超伝導体の中でも最も超伝導転移の高い系で、世界で初めて超伝導薄膜のその場成長に成功するなど、 多くの成果を挙げることができました。現在は、生田教授が日本側代表者となって、JSTの国際科学技術共同研究推進事業(戦略的国際共同研究プログラム)のもと、 日本、EUそれぞれ6研究チームによる共同研究で、「鉄系超伝導体デバイスの物理的・工学的基盤の構築」という課題に取り組んでいます。

  • (2) 高温超電導体における電子輸送現象、電子構造、擬ギャップ構造
    我々の研究室では、高温超伝導体の物性も研究テーマです。現在、研究されている高温超伝導体のほとんどが銅酸化物であり、代表的な物質として

    LSCO(La2-xSrxCuO4)
    YBCO(Y1+xBa2-xCu3Oy、Y1+xBa2-xCu4Oy、Y2+xBa4-xCu7Oy)
    BiSCCO(Bi2Sr2CuO6+d, Bi2Sr2CaCu2O8+d, Bi2Sr2Ca2Cu3O10+d)
    Hg系(HgBa2CaCu2Oy, HgBa2CaCu2Oy, HgBa2Ca2Cu3Oy )
    無限層構造(SrCuO2)

    などが挙げられます。いずれの物質もCuO2面を結晶構造中に有し、それが2次元的な電気伝導を担っています。 超伝導状態を発現したときには、コヒーレンス長が面間距離を越えるために、3次元的な超伝導が観測されることが知られています。 しかし、超伝導特性(臨界電流密度、臨界磁場)には、依然として2次元的な性質が反映されるのです。 超伝導状態は、フェルミ統計に従う(パウリの排他率に従う)電子が、クーパー対と呼ばれる電子対を形成しそれらがボーズ凝縮することにより発現します。 このとき、対を形成した電子は、格子による散乱を受けることなしに固体内を移動することができるようになります。すなわち超伝導状態が実現されるわけです。 バーディーン、クーパー、シュリファーのBCS理論によると、クーパー対の形成には、電子と格子(フォノン)との相互作用が重要な役割を果たします。 このフォノンによる対形成の説明では、超伝導遷移温度の上限は30K程度にしか成りえません。 しかしながら、現在までに見つかっている高温超伝導体では、超伝導遷移温度が最高で130Kを越えています。 世界中の物理学者が研究を行っているにも関わらず、高温超伝導体発見から20年以上経過した今現在でさえ、 この電子対形成機構は解明されていません。
    超伝導相は、モット絶縁体(広義:電荷移動型絶縁体を含む)である反強磁性絶縁相に、 キャリア(電子あるいはホール)を注入することにより発現します(上記した多くの系では、キャリアはホール)。 通常の金属では同じ原子サイトにおけるアップスピンの電子とダウンスピンの電子は相互作用が弱く、縮退状態にあるとみなせます。 一方、モット絶縁体の形成にはこれらの同一サイト上の異なったスピンの電子間の相互作用が重要な役割を果たしています。 この相互作用により、原子軌道がつながっている状態で1サイトに1個の電子がいる場合(通常は金属状態)であっても、 電子が局在し動けなくなる状態(モット絶縁体)が実現されるのです。 モット絶縁体にキャリアをドープすることにより得られる高温超伝導体では、このような電子間相互作用(電子相関)が強く働いていると考えられ、 特にドープ量が少ない領域では、超伝導状態発現前に電子状態密度に擬ギャップが現れることがわかっています。 この擬ギャップの起源については諸説有り、スピンギャップである説と、電子対の形成がインコヒーレントに起こっている説が有力であると考えられています。
    我々は、これらの超伝導発現機構や、超伝導体特有の電子間相互作用について詳細に研究を行っています。

    一方、超伝導発現機構は解明されていなくても、高温超伝導体を用いれば、液体窒素温度である77Kにおいてさえ、超伝導状態を得ることができます。 これらを送電線や磁場発生用コイルとして利用することは、近年のエネルギー問題を解決する一つの糸口になりえるでしょう。 このことから、我々は、高温超伝導体を応用した応用研究も積極的に行っています。それらのうちの幾つかはすでに実用化直前の状態です。

  • (3) 非周期系物質
    金属を高温に熱して液体とした後、これを106K/secの高速で冷却すると原子は再配列して 結晶を組むことが出来ず液体状態に固有な乱れた構造を残したまま固体となります。 これがアモルファス相です。アモルファス相は合金系でより生成しやすいのですが、 その原子配列には構成元素間の結合力すなわち生成のエンタルピーを反映した短範囲の秩序構造が観測されます。 これを化学的短範囲規則度(chemical short-range order)と呼んでいます。 これが電気抵抗の大きさやホール係数などの電子物性に大きな影響を与えるのです。
    アモルファス合金の作製
    アモルファス合金の作製方法として、1)安定な結晶中に何らかの手段を用いてエネルギーを与え、系に乱れを生じさせる方法。 2)液体、気体のように元々の乱れた状態から急速にエネルギーを奪い、そのまま凝結させる方法。の二種類が考えられます。 本研究室では、1)としてメカニカルアロイング法、2)として単ロール液体急冷法やスパッタ法などを用いてアモルファス合金を作製し、その電子物性、原子構造や電子構造を研究しています。
    アモルファス合金の電子輸送現象
    アモルファス合金が、結晶合金と比較して際立った挙動を示す性質の1つに電気抵抗があげられます。その特徴をまとめると以下のようになります。
    1.室温における比抵抗の値は20-2000mΩcmであり、結晶の合金と比べて5~100 倍程度大きい。
    2.抵抗の温度変化が小さい。例えば2K~300Kの温度範囲において数%程度の変化。
    3.電気抵抗の温度係数が、正及び負の場合があり、合金によってはほとんど0に近い値を示す場合もある。
    このような複雑な挙動を示すアモルファス合金の電気抵抗は、合金の構成成分の種類や組成によって種々変化します。 本研究室では、この電気抵抗に強く寄与する化学結合について下記に示す原子構造、電子構造解析を基に詳細に調べています。
    アモルファス合金の原子構造
    アモルファス合金の原子構造を求めるのに、本研究室では中性子散乱とX線(Mo-Kα線)を用いています。 中性子やX線の散乱強度から構造因子S(Q)を計算し、それをフーリエ変換することにより実空間の情報である動径分布関数RDF(r)を算出します。 アモルファス合金では原子配列が不規則なため、S(Q)ならびにRDF(r)はブロードとなります。 中性子とX線の違いはそのエネルギーにあります。中性子の方がエネルギーが高いため分解能が高くなりますが、 研究室レベルでは不可能なため、つくばの高エネルギー加速器研究機構にて実験を行っています。
    アモルファス合金の電子構造
    アモルファス合金の電子構造を求めるのに、本研究室では電子比熱測定、光電子分光法及び軟X線分光法をもちいています。 電子比熱測定から電子比熱係数を求め、フェルミエネルギー上での状態密度の大きさについて定・的な情報を得ています。 それに対して、光電子分光法からは価電子帯全体のプロファイルを得ることができます。 また、軟X線分光法からは、各電子の部分状態密度の関する情報を得ることができ、電子間に働いている結合状態がわかります。

  • (4) 強磁場スパッタ法(酸化物高温超伝導体の応用)
    また、最近は強磁場スパッタ法による薄膜形成の研究も行っています。 スパッタ法とは、イオン化したアルゴンなどを電場で加速して原料となる材料に衝突させ、 その反動で飛び出す粒子を堆積させて薄膜を形成する手法です。 様々な機能を持つ素子の多くは、材料を薄膜にすることで作製されます。 その薄膜形成の重要な手法がスパッタ法です。スパッタ法では、一般に効率を上げるために磁場を利用しますが、 上で述べた高温超伝導体の溶融バルク体はコンパクトで非常に強力な磁石になります。 そこで、この磁石を組み込んで、通常の20倍もの強力な磁場を利用して高効率にスパッタが行える装置の開発を行いました。 その結果、通常よりも低圧力の雰囲気で(つまり高真空で)スパッタが可能になりました。 また、長距離スパッタ、低電圧スパッタ、さらには通常は困難な強磁性体のスパッタが可能、 などの特徴をもつことがわかりました。これらは、作製される薄膜の性質に影響しますので、 従来よりも高品位な薄膜の形成が可能になるものと期待し、研究を続けています。